湯島天神下交差点すぐのところに店を構える創業80年を誇る鮨屋「すし初」。予約はインスタのDMからしたのですが、なんと2ヶ月先までほぼ予約でいっぱいであり、この日は待ちに待った訪問となりました。
4代目である若旦那山内祐治氏は「J.S.A.SAKE DIPLOMAコンクール初代優勝」という輝かしい成績をお持ちのほか、ワインスクールでの日本酒講師をはじめ、テイスターや日本酒ディレクターなど多方面でご活躍。最近では、大学院にも通い日本酒の造りや歴史などをあらためて学ばれているそうで、その熱量ならびに活動量には頭が上がりません。
店内はカウンターのほかテーブル席もありますが、「店主の説明を聞きながら日本酒ペアリングを楽しむ」という当店の性質上、使用するのはカウンター8席のみ。
また、一斉スタートでもあるのでくれぐれも送れないようにしましょう。我々は近場で時間を潰し、予約時間ぴったしにお邪魔したのですが他のゲストは全員お揃いでちょい焦りました。もしかすると開店時間以降であれば予約時間よりも少し前に入店し、ビールでものみながら待機できるのかもしれません。
劇場が幕開けです。おまかせコースにおそらく日本酒4合がペアリングでついてくるのが当店のデフォ。たくさん飲まなければいけないという厳しい決まりは一切なく、4合をベースに各人が、「1」「0.5」「1.5」など飲める量を自己申告制。途中好みの酒があればおかわり可能であり、量の調整は自由自在。
後半失速して飲めなくなっちゃったなんていうのは一番もったいないので、量が飲めない方は無理しないように。酒は飲んでも飲まれるな。
私は初めてだったので様子見も兼ねてデフォの「1」を申告。
乾杯は石川「吉田蔵u Wish for NOTO」。山廃仕込み、貴醸酒、うすにごりというかなり珍しいスタイル。
こちらに合わせた一品目はアボカドを使った和え物的なやつ。クリーミーな味わいかつ心地よい酸を感じる先のお酒といいマリアージュ。
お次は先と同様「吉田蔵u」の山廃。乳酸感の強いクラシックスタイルとはかわって、クリアな味わいかつ透明感を感じブラインドで出されたら迷ってしまいそう。
お刺身はエビ、ホタテ、ツブ貝。山椒を合わせた塩とともにいただきます。なるほど、貝類がもつ酸味や苦味が混ざったようなギュッとした旨味と先のお酒がベストマッチ。付け合わせのワカメもかなり美味しく、これだけで飲めてしまう。結果序盤からお酒をおかわりしてしまいました。
「真澄」で有名な長野県宮坂醸造による「MIYASAKA CORE」しかもこちらは4年ほど低温熟成したもの。7号酵母由来のバナナやメロンっぽい果物の香りを感じつつも味わいは実になめらか。フレッシュなお酒もいいですが、ワイン同様熟成の可能性を存分に思わせる1本。
お刺身第2弾は皮付きのヒラメやタチウオ、イサキといった脂たっぷりの魚たち。先のなめらかなテクスチャーと脂のオイリーな舌触りとで同調させるペアリング。
カツオのたたき。かなり厚めのカットで食べ応え十分。たまり醤油に玉ねぎ、さらにはマスタードが入ったソースがベストマッチ。
一瞬ワインと見間違いそうな外観。こちらは長野県小布施ワイナリーがワイン造りを終えた冬季休業期間で醸す1本。用いる酒米は長野県産美山錦のみの「単一品種」、ボトルサイズは1,500ml(通常1升瓶1,800ml)だったりところどころワイン要素を感じます。
今までの日本酒とはやや対照的に生酛造りらしいマッチョで酸もしっかりと感じます。それに合わせてか、咀嚼回数が多くなるようにカツオを分厚く切りつけしたのかなと勝手に想像して楽しい。こういう意図を感じる仕事が私は大好きなのです。
こちらは白和え。当店ではブラータを使用し、具材にはシャリ、カニの身、キウイフルーツを合わせます。米とフルーツ?とケンカしそうな組み合わせですがこれが不思議とめちゃうまい。本日1番のお皿です。
蔵元である加藤家の祖とする「加藤清正公」が改築した熊本城の復興を祈念し、熊本県のブランド米「森のくまさん」を用いて造られた純米大吟醸酒。芳醇な香りかつジューシーな旨味が先の一皿と相性抜群。
続いて鮎。3時間ほど蒸し器でゆっくりと火入れしたそうで簡単に箸が通り骨までイケる柔らかさ。
合わせる酒は福島「末廣」山廃純米吟醸酒を常温で。
焼き物は鰆の幽庵焼き。醤油・酒・みりんを合わせた調味液に魚をつけて焼くお料理ですが、当店では地にすりおろしたリンゴを合わせているそうな。なかなかのポーション。酒を飲みながらのゆっくりなペースもあってか腹8分目。昼飯ぬいてよかったー。
こちらは三重「而今」。兵庫県加東市東条地域といういわばワインでいうところのグランヴァン的な一本。これ単体で十分な存在感があり、個人的には単体で飲む方が好みかも。
開幕から2時間強。ようやくにぎりに入ります。
まずは車海老。口から溢れんばかりの大きな個体でありブリブリ筋肉質。
メジマグロ。味が柔らかく上品です。
イワシ。薬味などを用いて臭いを軽減する代わりに同じpHの液体に浸けて処理しているといった説明を受けた気がします。まぁそんなの忘れてしまうくらいにフレッシュで美味。
以上の3カンに合わせたのが秋田県でつくられる純米酒。程よい酸味が赤酢のシャリに寄り添い、純米酒らしい旨みが口いっぱいに広がります。
炙った鮭。細かく包丁が入っていることで良質な脂が口の中全体に広がっていく。
ヅケの中トロ。こちらも先と同様に炙るスタイルですが、提供温度を重視するため手を差し出して提供されます。
生酛造りのパイオニア的存在である福島「大七酒造」による熟成酒。これまたグッド。なんというか漢って感じのペアリング。
〆は穴子。フランス料理店よろしくサラマンダーで香ばしく焼き上げた穴子とカッテージチーズを合わせ海苔で巻き上げる。これは美味しくないはずがありません。
お酒はなんと日本酒にシェリー酒を加えた1杯と斬新なのですが、これがまた穴子の手巻きと抜群の合わせ。なんだかデザート気分。
以上、3時間の超大作。腹一杯になるまで食べ飲みしてお会計はひとり1.7万円ほど。我々は途中好みの酒をおかわりしたりチェイサーでビールを飲んだのですが、食事ひと通りにデフォルトの飲酒量であればおそらく1.5万円ほどに着地するでしょう。
ただ日本酒のスペックに触れるだけではなく、歴史や文化、最近のトレンドなどさまざまな角度から1本のお酒について説明をしてくれるのでとても魅力的。調理ならびに日本酒のチョイス、どの仕事をとっても”意図”を感じることができ、結果としてペアリングの完成度も高い印象を受けました。
「また来たい、通いたい。」だけでなく「この人をを連れてきたい。」そんなふうに思わせてくれる飲食店。次回は秋!おすすめ!!!
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