神楽坂から見番横丁という名前の通りへと入り、少し進んだ道沿いのビル2階にお店を構えます。大きな看板などは特になく、通り沿いに設置されているメニュースタンドが目印になりそうです。
見番横丁(けんばんよこちょう)とは、芸者の取次や送迎、玉代の勘定を行う「見番」が沿道にあることから名付けられたそう。接待や会食の時の小ネタ?に。
階段を登りお店へ向かいます。ビルの1フロアをそのままレストランにしたようなつくりなので隠れ家感もあり、個人的には結構好きです。
店内はおひとり様も歓迎してくれるカウンター席が6つほどに、4名がけのテーブル席が5つほどだったかな?の合わせて20席強のちょうどいいサイズ感。私が訪問した際はサーヴィスはほぼお一人で回されているので、タイミングによっては順番待ちが生じることもあるかもしれないのでガチガチの接待とかは避けた方が無難かもしれません。
テーブルクロスとかはないものの、木目調のテーブルを主体とした温かみを感じる内装です。どこか自由ヶ丘にあるレストランBに近い雰囲気を感じました。
店名のフロレゾン(Floraison)とはフランス語で「開花する」という意です。
当店の厨房を預かる鳴海陽人シェフは、「ピエールガニエール」「エメヴィベール」など都内フレンチレストランで腕を磨いたのち、「フィリップミル東京」にて副料理長を務め、当店オープン時からシェフに就任。
佐々木利雄オーナーソムリエは、ニューオータニの子会社や都内のレストラン、ワインバーなどを経て、2008年に神楽坂にイタリアン「しゅうご」をオープンしたり(現在は営業譲渡)、福岡・西中洲にてフレンチレストランをオープンさせた後、2019年に当店をオープン。
この日は7,700円のフルコースを予約。一部料理は選択式であり、前菜は2種のどちらかからそれぞれ好きなものが選べ、肉料理は課金制ですが5種類の中から好きなものをグループ統一で選ぶことができます。この席数の調理をほぼシェフお一人でされているにも関わらず、皿出しのテンポも良く、相当な腕前だと感じました。
ドリンクは、グラスワインが1,100円〜、ボトルが5,000円〜とこの手のレストランとしては大変良心的であり、さらには、コース料理に合わせたペアリングが5種でなんと5,500円〜であり、迷わずこちらをお願いしました。
後述しますが、ペアリングといいつつ、少なくなると注ぎ足してくれるので実質フリーフロー。酒飲みは絶対ペアリングを注文するようにしましょう。
グラスシャンパーニュ。こちらもペアリングに含まれているなんて素晴らしいお店なのでしょうか。
シャルドネやピノノワールを用いたバランスのとれたもので、青リンゴや洋梨のような果実が口いっぱいに広がります。
アミューズブーシュは小さなパテドカンパーニュやひよこ豆で作ったタルト生地に枝豆のムースを合わせたもの、チーズを薄く伸ばし?香ばしく焼き上げたスナックのようなバラエティに富んだ3種。
見た目も味わいも素晴らしく、この時点でシェフのセンスの良さを確信。
冷前菜には大分のイサキと水茄子のカルパッチョ。イサキは思いのほかマッチョな身質で、食べ応えがあります。
合わせたワインは長野県のシャルドネ。通常のスタイルと異なり樽無し(ノン・ボワゼ)でタンクのみで仕立てているからかピュアな果実味を存分に感じることができ、お料理との相性とピッタリ。酸度が高いのでワインと認識できますが、酔っ払った状態でブラインドで出されたら日本酒とも答えてしまいそうなそんなニュアンスさえ感じました。
ソムリエの方のご趣味とおっしゃっていましたが、現地に足を運んでワイナリーを巡っているからこそ、こうしたワインを見つけ出すことができるんでしょうね。ワインへの愛を感じます。多分私の拡大解釈。
連れはもう一方の牛のタルタルを頼んでいたのですが、そちらも大変魅力的な一皿でした。
お次は、シャモロックのバロティーヌと山菜のフリット。これは素晴らしいお皿ですねぇ。鶏肉自体の旨味の濃さもさることながら山菜の苦味が心地よい。旨味と塩味と苦味の取り合わせが抜群。
ちなみに、バロティーヌとは、骨を取り除き開いた鶏肉などの肉に詰め物をして、火を通したお料理で円筒状が一般的です。
合わせるワインはブルゴーニュのアリゴテ。柑橘や赤リンゴのようなジューシーでフルーティーな味わい。鶏肉のような白身肉にももちろん、シャルキュトリーや火を通したシーフードなども合いそうです。
いい合わせだったので結構なペースでワインを飲み進めてしまったのですが、ソムリエが「足りてますか?」と一言、ワインを注ぎ足してくれました。なんて気前がいいのでしょう。
お魚はヒラスズキ。お手本のようなミキュイの火入れ。エシャロットやトマトを用いたソースまで素晴らしい出来栄えで、もうお手上げです。
こちらにはセミヨンを100%使用したボルドーの白。熟した柑橘系の果実に樽の香りがバリっと効いていて、ボリューム感ある味わい。
メインは500円の追加料金でNZ産仔羊のロースを。ジュのソースでいただきます。
お魚同様素晴らしい火入れで付け合わせまで抜かりなく美味い。7,000円台のコース料理のメインで食べれるクオリティをはるかに超えた一皿です。
ワインはボルドーの赤。確かメルロとカベルネソーヴィニヨンをブレンドしたものであり、仔羊と王道中の王道のペアリングです。メルロの柔らかな果実味がラムの脂の甘味や旨味と寄り添い包み込むような、そんなマリアージュでした。
デセールはアメリカンチェリーとライチのムースと発酵バターのアイスクリーム。意外な果実の取り合わせでしたが甘酸のバランスが良く、あっという間に食べてしまいました。
このお皿はパティシエール自らサーブしてくれたのですが、素晴らしいプレゼンテーションですよね。自ら手をかけた一皿ですから説明に愛と熱がこもっていて食べる前からすでに美味しい。
フィナンシェなどのミニャルディーズまで美味しく頂きフィニッシュ。
以上、7,700円のフルコースにワイン5杯のペアリングでお会計は1人1.4万円ほど。神楽坂の奇跡。倍近くの金額を請求されても納得してしまいそうなクオリティのレストランであり、そりゃ人気になるわな。
お料理は王道のフランス料理であり、随所にシェフの技術の高さとセンスの良さを感じます。ペアリングについても素晴らしいの一言。お料理に見合うクラシカルなワインをベースにしながらも、醸造にこだわりを持ついい味わいのワインばかり。シャンパーニュが5,500円のペアリングの中に含まれているだけでなく、随所で注ぎ足してくれるなんて仏かよ。神楽坂で通いたいお店No.1。
フランス料理好き、ワイン好きが満足することは間違いないとして、若い世代の方にこそぜひ行ってほしいお店。見栄を張って恵比寿や六本木の煌びやかなお店に行くのもいいですが、緊張して味がわからなくなるくらいなら、少し肩の力を抜きつつも本物を味わえるお店からスタートしてみるのはいかがでしょうか。
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