日本でもトップクラスのグランメゾン「アピシウス」。好みはあれど、銀座「ロオジエ」と双璧をなす東京を代表するグランメゾンでしょう。店名は古代ローマの美食家アピシウスに由来し、1983年の開業以来、日本のフランス料理界を牽引。
岩元学シェフは、調理師専門学校を卒業後、「ピアジェ」で4年間勤務したのち1983年に当店に入社。高橋徳男シェフのもとでご研鑽を積み、1997年にスーシェフ、2008年よりシェフとして厨房を預かります。
情野博之シェフソムリエは、「トゥールダルジャン」にてシェフソムリエを務めた後、現職へ。フランス発祥のレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ2019」にてベストソムリエ賞を受賞のほか、ソムリエで知らぬ人はいないほどの生ける伝説。
「ザ・ペニンシュラ東京」の向かいにある蚕糸(サンシ)会館の地下1階に店を構えます。ドレスコードも厳格にあり、男性はジャケットの着用必須であるのでご注意を。
さすがはグランメゾン。ディナーのコースは27,000円〜+サ料となかなかな金額である一方で、ランチは前菜とメインディッシュをチョイスできるコースが8,800円からあり非常に良心的です。私はもう一方の「デジュネ アピシウス」でお願いしました。
エントランスにて予約名を伝え、メインダイニングまでお連れいただくのですが、重厚感がものすごいですねー。ソムリエの実技試験の時よりも10倍緊張しました。
初見で訪れ、もしかすると「気さくさ」や「笑顔」をホスピタリティだと捉える人にとっては、当店のサーヴィス陣はやや愛想に欠けると感じてしまうかもしれませんね。私は、初対面にも関わらず急に距離を詰めて話しかけられるのが苦手な根暗タイプなので、究極の所こちらから話しかけるまで一定の距離を保ってくれる当店のスタイルには大賛成。
むしろこの緊張感すら楽しく、今後何度も通うことで居心地を確保していきたいと思ってしまいます。
この日は1名での訪問につき、お料理に合わせてグラスワインを頂くことにしましたが、ワインリストが大変素晴らしい。2万円前後からのスタートと絶対額は高いものの、今や手に入れ難い飲み頃を迎えたワインたちが破格でいただけちゃいます。
まずは、シャンパーニュ。アルフレッド グラシアン。柑橘やアプリコットなどの凝縮したアロマに、イーストや蜜っぽさ。酸はありますが、鋭さというよりかは旨味を伴った丸みを感じる味わい。
同時に山盛りのオリーブが供さるのですがこれがたまらなく美味しい。アンチョビが中に詰められたもので、酒飲みであればこれだけで泡1本飲めてしまう。
アミューズは白身魚とホタテのテリーヌをクレープ生地で包んだもの。
前菜はガチョウのフォアグラと季節のフルーツのサラダ仕立て。レモンリキュールのジュレが添えられています。
余談ですが、フランス語で太った肝臓を意味するフォアグラ(foie:肝臓 gras:脂肪)には、フォアグラ・ド・オアとフォアグラ・ド・カナールという2種類に大別され、前者はガチョウの、後者はカモによるもので、前者の方が飼育が難しく高級とされています。
入手が困難であるフォアグラがなんとAirPodsProに迫る大きさで大変贅沢。濃厚さはありながらもクドくない洗練された味覚です。マスカットやキウイ、レモンリキュールのジュレの異なる酸味も非常にいいアクセントです。
こちらに合わせていただいたのは、アルザスを代表するジョスメイヤーのゲヴェルツトラミネール。ライチや白バラを想起させる芳香に白胡椒のようなスパイスがあり、熟成によって調和が取れたこちらは非常に官能的な舌触り。これぞエロティシズム。
フォアグラとの相性は言わずもがなですが、食材並びにワインの質の高さに、これぞグランメゾンという風格を感じます。
スペシャリテである小笠原の青海亀のコンソメスープ。
スープといえど一種の粘着性を感じるような妖艶な舌触りに滋味深い味わい。鼻腔に留まる余韻が凄まじく長い。さすがのスペシャリテ。
これにはシェリー酒のアモンティリャード。ヘーゼルナッツのような重厚でコクがありつつ独特な芳香。これまた素晴らしいマリアージュです。
メインはクレピネット(網脂)で包んだ鴨肉のコンフィと家兎肉のブーダンブラン。ソースにはマッシュルームとレンズ豆で仕上げたソース。
鴨肉や兎肉はもちろんですが、ソースがめちゃんこ旨い。お世辞にも見た目映えしない一皿ですが、迫力が凄まじい。
合わせていただいたのはベルトラン・アンブロワーズのNSG1級畑アン リュー ド ショーの2006年。小さな赤系果実にサクランボや桃、スーボワ、スパイスと複雑なアロマ。骨格はしっかりしているものの口当たりは非常に滑らかで余韻も長い。先のお料理もしっかりと受け止める懐の広い合わせ方だと感じました。
デセールにはクレームブリュレ。定番ではありますが、クラシカルなレストランで食べるのもなんだか感慨深い。
グランメゾンといえばのワゴンデセール。名物タルトタタンのほか数種類いただきましたが、さすがの仕上がりです。スタイルがやや異なるもののお隣のペニンシュラブティックよりも私はこちらで頂いたものの方が好みの味わいでした。
カヌレやショコラなどのミニャルディーズまで抜かりない。
以上、13,200円のランチに、シャンパーニュの他グラスで3杯ほど飲み、お会計は税サ込2.7万円。これだけの料理とワイン、それでいて精鋭のサーヴィス陣からの接遇を受けたと考えると非常に安い。
私は絵画に疎いためその価値を理解できないのが恥ずかしいのですが、シャガールやユトリロをはじめとした名だたる絵画に囲まれた食事も当店の特徴でしょう。
フランス料理好き、ワインラヴァーはもちろんのこと、若い世代こそ当店のような歴史のあるレストランに足を踏み入れてほしい。まずはランチから、1年に1回行く旅行を我慢して、当店での食事をすることを心からオススメします。ここにあるもの、集まる人、全てが本物だ。
次回は、ディナーにアラカルトでチョイスし、好みの1本をワインリストから見つけ出すというグランメゾンの遊びをしたいと思います。
好きなものを選べる、選ぶって究極の贅沢だよな。これからも通い続けたいレストラン。
コメント