An Di(アンディ)/外苑前

その他

外苑前駅から歩くと3分ほど。焼鳥今井の店主が昼のみ営業するとんかつ七井戸のすぐお隣にあるモダンベトナミーズレストラン。「An Di」とはベトナム語で「召し上がれ!」を意味するそう。

当店のビバレッジを監修する大越ソムリエはロジカルペアリングの第一人者であり、訪れる際は必ずペアリングをセットで注文するようにしましょう。

店内は想像していたよりもカジュアル。予約の状況によっては背もたれのないカウンター席に案内される可能性もあるそうな。客単価2万円のレストランの割に、ドレスコードとかもゆるゆる、中にはパーカーをお召しのゲストもいらっしゃいました。ガチガチの接待やデートにはやや不向きかも知れません。

補足しておきますが、テーブルセッティングは寸分のズレもなく、おそらくサービスマンの中にグランメゾン出身者が携わっているように感じました。一見するとカジュアルに見受けられますが、現場は洗練された雰囲気を醸しており、これこそまさに「神は細部に宿る」である。

ペアリングに入る前に食前酒を勧められます。訪問時はおそらくもう少し安価だった気がするのですが、公式写真(2024年2月登録)を参考にすると、自家製のレモンサワーやジンソニック(ジンをソーダとトニックで割ったもの)が1杯1,300円ほど、グラスのシャンパーニュに関しては1杯2,500円とテーブルクロスが敷かれているようなバリバリのレストランに匹敵するお値段。

私はジン&ソニックをチョイス。心なしかバーで飲むものと同等の美味しさに感じます。

スパイシーなボロネーゼに大葉、パクチーの花を挟んだバインミーでコースの幕開けです。

スペシャリテのティーリーフサラダ。この日は、グレープフルーツ、フルーツトマト、きゅうりのピクルス、揚げたエシャロット、桜エビ、いりごま、押し麦、八女茶といった食材たちをイチゴのドレッシングで取りまとめたお皿です。

これが抜群に美味しい。食材自体は馴染みがあるものばかりなのに、これらを組み合わせるという発想が面白い。”センス”ではなく”ロジック”に基づいた料理であり、今後の展開に期待が膨らみます。

合わせるワインはフランス ジュラ地方のロゼスパークリング。ガメイ主体らしく、木苺のような柔らかな甘みと酸を感じる味わいで、先のサラダとの相性抜群。

お次はシラスとホワイトアスパラガスの生春巻き。付け合わせにはパッションフルーツを用いたソース。生春巻きというとエビにチリソースみたいなイメージが強かったのですが、新発見です。

合わせるのは日本酒。福岡県糸島産の山田錦を用いた純米酒である田中六五。もちろん良いペアリングではあると思うのですが、ワインが来るかなと楽しみにしていたため何だかな。

 

 

続いてのお料理は紅富士マスとビーツのバインベオ。

バインべオとは、ベトナム中部の都市フエを代表する料理で、米粉とタピオカこを混ぜた生地を蒸し、その上に干しエビや揚げた豚の皮などをのせるのが一般的な(?)レシピなそうな。

こちらには、オーストラリア西部のピノノワールで作られるロゼ。ベリーやクローブといったピノノワールでよく感じるアロマを共通してこのワインでも感じました。

さらには、初鰹のタタキ。ガーニッシュ(付け合わせ)は、ゴボウをピューレやフリットなどの調理法で仕立てたもの。ベトナム料理感はあまり感じられないものの、魚料理としては普通に美味。時期的なものもあってかアッサリした鰹の旨みが印象的でした。

ワインは北海道 余市のツヴァイゲルト。ベリー系の果実に、オレガノや黒胡椒のホールのようなスパイス、シダ植物を思わせる清涼感すら感じます。

マグロにピノノワールみたいな合わせをたまに見かけますが、マグロよりもややあっさりした味わいを持つ赤身魚のカツオに対して、ワインも同等のやや軽やかでフレッシュなテクスチャのワインを用いてくるのはさすがです。

メイン料理は岩中豚の炭火焼き。低温で火入れしているのかムラなくしっとりとした仕上がり。発酵バナナとベトナム産カカオががソースに用いられた面白い一皿でした。

シチリアの赤。ネロダーヴォラとフラッパートと、イタリアワイン好きでなければおそらくスルーしてしまうような品種たち。ブドウ自体の力強さ的なのは芯に感じるものの、口当たりは実にエレガンス。

ベクトルは異なるものの発酵バナナの酸とワインが持つ心地の良い酸味との相性が個人的に好きでした。

〆にはフォー。ベトナム料理初心者の私ですら何度か食したことのあるポピュラーな料理がここにきて登場しなんだか嬉しい。スープがめちゃくちゃ美味しい。これ単体で専門店を出しても良いんじゃないかと思うほどでした。

新茶とヤングコーンがセットになって登場し途中、セルフ味変していきながら楽しみます。

こちらにはフランス ジュラのヴァンジョーヌ。これは素晴らしいマリアージュ。旨みや塩味、酸味といったあたりの要素がピッタシ。ややオイリーなテクスチャの相性も見事で、食べたら誰もが納得するようなそんな組み合わせでした。

ワイン初心者には少しハードルが高いかも知れないヴァンジョーヌの魅力をわかりやすく体感させる良い教材のよう。

デザートは確かココナッツプリン。上から柑橘のグラニテ。

以上、コース一通りにペアリングをつけてお会計はひとり1.8万円ほど。

コースが始まる前は、ベトナム料理で2万円近くするの?とかテーブルクロスもないの?なんて思ってしまったりもしていましたが、最終的にはかなり満足度の高い食事。

レストランとしてちゃんと料理が美味しく、ペアリングの精度は言うまでもなく都内トップクラス。予約も比較的取りやすく、価格設定的にも通える範疇。

アラサーくらいの「なんか美味しいもの食べにいきたいけどあまりかっちりするのもね…」みたいな人たちに心からお勧めします。

年に1度ほど訪れるベトナム料理が無性に食べたくなる日にまたお邪魔したいと思います。

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