日本を代表する老舗グランメゾンは?と聞いたら間違いなく、指折りで名前が挙げられるであろう銀座 「L’ecrin(レカン)」。1974年開業。
歴代の料理長は、京橋「シェ・イノ」を開業した井上旭氏をはじめ、「レストラン ラフィナージュ」の高良シェフ、下町のグランメゾンと称される「渡辺料理店」の渡邉シェフ、など名だたる方ばかり。
現在は、シェ松尾でのご研鑽、レストランFEUのスーシェフを経て、グループ店舗のロステリーレカンの料理長をご経験した栗田雄平氏が、8代目料理長として厨房を指揮しております。
場所は銀座の心臓部、ミキモトビルの地下1階に位置します。エントランスで予約名を告げ、エレベーターにてメインダイニングへ向かいます。
シャンパンゴールドを基調とした空間に、円型のテーブルが配置されたダイニングとは別に、最大14名まで利用ができる個室もあります。メインダイニングの座席は30人強といったところで、グランメゾンとしてはちょうど良いサイズ感です。
ランチのMenuは、Déjeunerもしくはディナーにも提供しているMenu Saisonの2種類。今回は通常のMenu Déjeunerでお願いし、追加料金にてメインに牛フィレ肉のポワレも選べたので、そちらをチョイス。
乾杯のシャンパーニュは、税サ込で2,500~とグランメゾン価格。絶対額はそれなりにするのですが、熟成を経たシャンパーニュをグラスでいただけるということを考えたら妥当な金額設定。グラスで8,000円近くはしますが、プレステージシャンパーニュなども選択肢にあり、さすがワインへの矜恃を感じます。
加えて、ディスカバリー(発見)をテーマにしたペアリングは3杯(90ml/glass)で6,000円とこの手のレストランでは非常に良心的だったのでコース料理に合わせてそれをお願いしました。
トップバッターのアミューズは蟹づくし。蟹とカリフラワーのムースとズワイガニのクロケット。さすがはグランメゾン。王道の組み合わせですが、見た目味わいともに高次元。ズワイガニのクロケットは究極の蟹クリームコロッケといった具合で、小さいサイズながら存在感。10倍のサイズで持ち帰りたい。
続いて、前菜は、戻り鰹とフロマージュ(ブラン?)のテリーヌ アボカドのクーリ グレープフルーツのマルムラード チョリソとアンチョビのソース。
脂がしっかりと乗った鰹に、チョリソとアンチョビという意外な組み合わせのソースが非常に合う。鰹にグレープフルーツのマーマレード?と一瞬、びっくりしますが、これまたいいコンビ。しっかりフランス料理として完成された一皿でした。
こちらに合わせるのはイタリア エトナのロゼ。赤い小さな果実に、わずかにバラのようなアロマなどを感じつつも、スッキリとしたミネラルや酸がベースにあり、非常にお料理との相性がいいです。
エトナは火山のニュースで最近知りましたが、日常的に生活していたらなかなか手に取ろうとしない産地のワイン(しかもロゼ)であるので非常に面白くテーマにもあるまさに発見。
お魚料理は真鱈のロティと牡蠣。じゃがいものピュレとほうれん草 ソースデュグレレ。淡白な味わいの鱈と強い旨味を伴った牡蠣という好対照な食材の組み合わせもさることながら、クラシカルなソースが素晴らしい。魚の出汁やエシャロット、タマネギやトマトに白ワインを合わせたソース、考案者である料理人アドルフ=ディグレレの名を冠してます。フランス料理はソースであると言わんばかりの迫力を感じとりました。
ワインはオーストラリアのシャルドネ。海に近いエリアなのか、少し潮のようなニュアンスを感じました。凝縮感のある果実にエレガントな樽の風味が心地よい。ブラインドで飲めばそこらのフランスワインを余裕で超えてくるポテンシャルを感じました。
めちゃくちゃ先のお料理との相性がいい。これぞマリアージュ。
食中、近藤佑哉シェフソムリエと会話するタイミングがあり、不躾ながら「先日のワイン王国(ワインに関する専門雑誌)拝見しました…」とお伝えしたところ、私が若輩者であったからか、ご厚意でワインをサービスで出していただきました。
ミッシェル・クトゥーのシャサーニュ・モンラッシェ。同エリアのトップ・プロデューサーであるミッシェル・ニーヨン氏の義理の息子にあたります。
クラシカルな合わせ方もぜひどうぞとのご説明をいただき飲んだワインですが、感無量。先のペアリングももちろんハイレベルなのですが、こちらのペアの方が迫力が1段階も2段階もうわて。
お料理があり、ワインがある。クラシカルなお料理を軸にクラシカルなワインを合わせる。この盤石な土台があるからこそ、ペアリングのテーマに掲げられていたディスカバリーが成立するのでしょう。
料理やワインだけでなく、情報が圧倒的に増えて便利になった今、焦って突飛なことをするのではなく根幹が大切なんだなと改めて体感しました。私も、焦らずしっかりした土台を作る20代を送ろうと固く誓う。
メイン料理。
国産牛フィレ肉のポワレ アマレット風味の南瓜と黒トリュフ ソースシャスール。
猟師や狩人を意味する”シャスール”ソースは、デミグラスをベースにシャンピニオンやエシャロットや白ワインやトマトを加えた、肉料理との相性が非常にいいと言われているものです。
フィレ肉の火入れは、今日の流行りであるレアな火入れとは対照的に、かなり中までしっかり火が通されていますが、ナイフ越しにでもわかるかなり柔らかい触感。味わいについても赤身と脂の旨味のバランスがよく文句なしに美味しい。付け合わせのジャンボブラウンマッシュルームや南瓜も素晴らしいです。人生で一番記憶に残ったハロウィンでした。
こちらには、ボルドー サンジュリアン シャトーベイシュヴェル2011。
中世にジロンド河を通る船乗り達が、この地の領主だったフランス海軍提督に敬意を表すため、「ベッセ・ヴワール」(帆を下げよ)と、叫んでいたのがシャトー名の由来だそう。
カシスやブラックベリーの官能的なアロマに、しなやかなタンニン。力強さも感じつつもエレガント、なんとも不思議な感覚に陥ります。余韻も非常に長く大変優雅。牛肉とももちろん大変素晴らしい相性です。
ワインっていいな。
途中から近藤シェフソムリエが我々のテーブルに入れ替わってくれたのですが、確実にご贔屓にしてくださっている気がします(?)
加えて、先ほどのダブルペアリングと同様、裏からもう1杯赤ワインを持ってきてくださいました。
なんと「Chateau Margaux1998」
もう一度言います。「Chateau Margaux 1998」
シャトーマルゴーです。泣く子も黙るワイン。ボルドー格付け第1級 プルミエ・グランクリュ・クラッセ。
「経営も大切ですが、次世代につなげていくのも我々レストランの役割ですからね」と、近藤さんから身に余るご厚意を賜りました。
感動です。私ごときが形容すべきワインではなく、圧倒的な風格がありました。20年以上熟成しているとは微塵も感じないほど瑞々しく、生きている間に自分の手で熟成してさらに真価を発揮したものを必ず口にしようと心に決めました。
せっかくなので、デザート前にチーズを。
一つは、表皮を塩水やマール(ブドウの搾りかすから造るブランデー)で洗い、風味をつけたエポワス。熟成が進み中心部がトロリとしています。
もう一方は、美食家の名前を冠したブリア・サヴァラン。クリーミーで美味しい。
食後酒も素晴らしいものがたくさん用意してあり、私はナポレオンが愛したという伝説のある南アフリカのデザートワインであるヴァン・ド・コンスタンスを。
チーズとこのデザートワインってコース料理の醍醐味ですよねぇ。食事の余韻を十分に堪能することができました。
デザートは確か、無花果のコンポートだった気がします。
ミニャルディーズは、世界で1つしかない宝石箱のワゴンから選べます。店名レカンはどうやら宝石箱との意味を持ちこちらのことを指すそう。
ショコラを中心に、控えめに5種類ほどいただきました。
珈琲は少なくなると継ぎ足してくれ、たっぷりカフェの時間も堪能。
ランチのコースにメイン料理をアップグレードして、グラスシャンパーニュにワインペアリング、さらには食後種まで追加して、お会計は、一人2万円を切りました。
うわーー。これは費用対効果が良いとかの次元を通り越してもはや尊いですね。
料理、ワイン、サーヴィスの全てのレベルが非常に高く、空間もゴージャスと落ち着きを兼ね備えています。
私が”レストラン”に求める全てが揃っていました。
レストランってなんて素晴らしいんでしょう。
大変記憶に残る食事でした。
次世代を担う若者が、お酒やレストランなどの文化から遠ざかってしまっている今、
こうした意義の大きなレストランを存続させるべく、その魅力をもっと伝え広めていきたいと私は思います。
当時を振り返り、見栄を張って背伸びをしてレストランにきて本当によかった。何事も迷ったらやってしまおう。これは今でも大切にしている私の中の指針です。ご馳走様でした。
クラシックを根幹としながら、進化を続けている素晴らしいお店。次回訪れるときは、地下のバーでアペしながら、ワインリストと睨めっこして、渾身の一本をチョイスしたいなと思います。
フランス料理を食べ慣れている人もそうじゃない人も、記憶に残る数時間になること間違いなしです。おすすめです。
銀座レカン 閉店 理由
創業1974年の銀座レカンですが、現レストランラフィナージュの高良シェフが(6代目料理長)料理長を務めていらっしゃった時代に、ビルの建て替えのため?実は一度閉店をし、約2年半もの休みを経て、2017年6月に再オープンしています。こんな事例は高級レストラン、しかもたくさんのお客様を抱えている老舗グランメゾンでは、ほぼない。
私はリニューアル前のレカンを残念ながら知りませんが、現在のレカンは間違いなく日本トップクラスのレストランでしょう。これからも当店の進化を追い続けていきたいと思います。
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