外苑前駅から徒歩5分ほど、原宿方面へ向かう途中、ビストロアミニマやAn Di(アンディ)などのすぐ近くです。現在は麻布台ヒルズに移転。
オーナーシェフである川手寛康氏は、東京都のご出身。両親や親戚が料理人であり料理が身近な環境であったそう。1997年「Q.E.D.CLUB」に入社。2002年に西麻布「ル ブルギニオン」に移り、菊地美升シェフに師事。2004年より同店スーシェフとしてご活躍。その後2006年に1年ほど渡仏し、帰国後は「カンテサンス」にてスーシェフを務め2009年に独立開業されていらっしゃいます。
店内は、黒を基調としたシックな内装で、全席カウンター。オープンキッチンであり、料理の仕上がる様を見ることができ、臨場感がすごい。どちゃくそにカッコイイ空間。
この日のゲストは、近くに住んでいそうないかにも食痛そうなご夫婦やバリバリ仕事をこなしていそうな30代前後のカップルなどの男女のグループが多く、男2人は我々のみでした。
訪問した時も現在同様、料理はおまかせコースのみの用意で15,000円ほど。この日はご馳走になったので詳細な金額は不明ですが、料理に合わせておそらく1万円ほどのワインペアリングをお願いしました。
入店は18時もしくは18時30分からの席が選べ、我々は後者を選択。後述しますが、メインのお料理はその日のゲスト全員でシェアするため、後半食事のペースを早めてほしいと2回も注意されてしまいました。出来るだけゆったりしたいという方は必ず18時スタートで当店を訪れましょう。
乾杯のシャンパーニュ。シャルドネ100%でつくられたもの。レモンやグレープフルーツの柑橘類の果実に、シャープな酸を感じるアタック。ピンとした張り詰めたミネラルも感じるワインでした。
お料理一皿目はヤングコーン。
いまさっき畑で収穫したばかりかのように、バスケットに並んだ状態から供されます。臨場感あるプレゼンテーション。コーンやポレンタなどで構成されており、糖度の高さを感じます。
続いてアオリイカ。真っ白でこれはものすごい美しい見た目。
アオリイカの下にはフロマージュブランやキャビアが隠されており、てっぺんにはペンタスというアフリカ原産の?小さな花が添えられています。
アオリイカのねっとりとした味覚にフロマージュブランの爽やかな酸、キャビアの塩気のバランスがグッド。
お次は鰯。イワシとリンゴをミルフィーユ状にした一品です。緑色のソースはミントと大葉のソース。サイドディッシュとして、文旦だったけかな?の実をほぐしサンドしたシフォンケーキのようなものが添えられます。
んー、食材自体は悪くないものの先の料理と味わいのベクトルが似ており、あまり印象に残りませんでした。付け合わせのシフォンケーキも味わいは面白いのですが、このタイミングで出てくる意図がわかりません。
合わせたワインはイスラエルのピノ・グリ。青リンゴや花梨、エキゾッチックなニュアンスも僅かに感じました。
しかしながら、タイミングや温度のコントロールが間に合っていないのか、かなり冷え切った状態で供され、ワインの本来の味わいを感じる頃には、料理がほとんど残っていない状態でした。
これだけのゲストをほぼ一斉スタートで2人のサーヴィスで回しているから仕方ないことなんでしょうが、ペアリングというからにはもう少し頑張ってほしいところ。
椎茸 バッカスチーズ。椎茸を用いたフラン、いわば茶碗蒸しのような料理です。フランス料理というよりかは和食に近いような気がしますが、椎茸の旨味が濃く、トリュフとの相性も十二分に良かったです。
合わせるのは、日本酒。山田錦100%の純米酒であり、コメ由来のしっかりとした旨みに加え、乳製品的な香りとわずかにマッシュルームっぽさも感じました。間違いないペアリングでもはや和食料理店にいるような気持ちになるひと場面でした。
キノコ類は酸があまりないのでワインと合わせるのはやや難しいのかなぁ。日本酒ではなくワインで勝負して欲しかったな。
当店のスペシャリテ。サスティナビリティ 牛。経産牛(子を産み終わった雌牛)を用いたお料理です。
一般に、経産牛は肉質が固くなってしまうことが多いのでなかなか、使用されないのですが、こちらを薄くスライスし、低温で火入れし、コンソメとともにしゃぶしゃぶのようにして頂きます。
これはものすごい一皿ですね。社会問題のキーワードでもあり、料理名でもあるサスティナビリティ(持続可能性)をフランス料理の技法を使って見事に表現しております。シンプルに美味しく、料理としての完成度が高い。
合わせたワインはシェリー酒、アモンティリヤード。これは抜群のペアリングですね。
ワイングラスではなく、盃を用いているのも新鮮で面白かった。縁に厚みがあるため、シェリー酒の特徴でもあるツンとしたアルコール感が柔らかくなっているような気がしました。
大根。煮込んで味を染み込ませたような大根をソテーしたのでしょうか。お味は悪くないのですが、大根は所詮大根であり、このボリューム並びにこの場面で出される意図があまりわかりませんでした。
ワインはブルゴーニュの白。さすがはドメーヌルフレーブ。偉大な生産者によるワインは抜群に美味しいのですが、同様にあまりペアリングの意図は伝わりませんでした。
お魚はハタのベニエ(≒フランス風天ぷら)。
魚の下にはミントのソースと、別皿でイチゴとトマトのコンポート?で作ったソース?ガスパチョ?もついてきます。
ハタの火入れは抜群。非常に艶やかな断面であり、味わいも素晴らしい。他方、ミントのソースやイチゴやトマトとの相性は私にはやや難解でした。
シチリアのロゼ。チェリーやストロベリーの果実味と鮮やかな酸が印象的でした。ガスパチョ的なお料理との相性はいいものの、主題であるハタとの相性は可もなく不可もなくです。
メインは”分かち合う”という題名を冠した豚肉のローストです。
塊肉のお肉をその日集ったゲスト全員で分かち合って食す。というコンセプトらしいのですが、「いい状態でお出ししたいので、もう少し食事のペースを上げてほしい」とサーヴィスの方から申し受けました。
コンセプトは理解できるし、素敵だなと思うものの、レストランに食事に来ているゲストとして思うのは、貴方たちの仕事は、ゲストの食べるペースに合わせて、出来るだけベストに近いタイミングで料理を出すことじゃなかろうか。てか、そんな食べるの遅かったかな。。。
魚料理に続き、火入れに関してはさすがの一言。ソースは赤ワインソース。付け合わせにはほうれん草やそのピューレ。ほろ苦さが心地よいアクセントです。欲を言えばフランス料理店のメインは豚肉よりも鴨肉とかを食べたかったな。
ワインは、フランス ローヌのシラー。ワイン自体は素晴らしい味わい並びに好きな造り手で嬉しいのですが、豚肉とのバランス考えると若干ワインが強すぎるように思いました。
サーヴィスでお出しいただいた日本のメルローの方が先の料理との相性は良かった気がします。
西瓜。フレッシュな果肉とジュース、中にはレモングラスだったけかな、(失念)のゼリー。
マンゴーはココナッツのブランマンジェとパウダー状のミルクが上にかかっていました。
アマゾンカカオ。カカオの風味がしっかりと感じられるオムレツ。大変おいしいです。濃厚な味わいで印象に残った一皿であり、そこらのパティスリーなら1,000円くらい請求されても納得のお皿でした。
ミニャルディーズはナガノパープルのパートドフリュイ。
ミニャルディーズを除き全11皿。2時間半の滞在。
前述しましたが、ゲストである我々が食事のペースをコントロールしないといけないのは腑に落ちません。メイン料理に関してはゲスト全員でシェアするため〜 のようにせめて予約の段階で明確に記載してほしいところ。
料理に関しては、魚や肉の火入れをはじめとした調理技術の高さや、サスティナビリティという問題意識を組み込みながら一皿の料理に昇華させるシェフのセンスの良さを要所で体感しました。
ただ、一つのお料理が別々の皿で提供されるスタイルが多用されているのに加えて、食べ慣れないイノベーティブな調理であるため、ときおり何を食べているんだろう?と注意が散漫になってしまう瞬間があり、個人的には、皿数をグッと絞ってフルパワーのお料理を体験したいなと思いました。
だいぶ期待して訪問したため、かなり辛口な評価になってしまったかもしれませんが、この立地で星付きのレストランの食事にペアリングが2.5万円ほどでいただけると考えると妥当な支払い金額なのかもしれません。
現在は神宮前から麻布台ヒルズへと移転され、第3幕としてゲスト全員と一つの大きなテーブルを囲むターブルドットスタイルにて腕をふるってらっしゃるそう。サステナビリティをこれほどまでテーマに掲げられている意義深いレストランであると思うので次回は改めてその真価を確かめに行きたいと思います。
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