外苑前駅から歩いて5分ほど、外苑西通りを進み途中曲がると現れる、真っ黒なファサードのレストランジュリア。
店内はカウンター10席。ゲスト全員が横一列に着席するスタイルで一瞬鮨屋にでも来たかのような錯覚に陥ります。外観同様、黒を基調とした店内はめちゃくちゃイケており、まるでステージを眺めているようでした。
エグゼクティブシェフであるnaoシェフは、レストランのPRなどの裏方から独学にて料理人への道へと進み、2012年にパートナーでもある本橋健太郎氏の故郷、つくばにて本橋ワイン食堂を開業。2017年に東京 恵比寿へと進出し、2019年外苑前へと移転。2023年11月よりお向かいの場所に移転したそうです。そちらはペアリング込みで35,000円だそう。
ご夫婦2人で営業の全てを回しているため、19時一斉スタート。新店舗の勝手は存じ上げませんが、ドアオープンは10分前の18:50分からで、ウェィティングスペースなどはないので時間厳守で訪れましょう。私のような心配性の方は、すぐ近くのAOYAMA GRANDHOTELのTHE BELCOMOもしくはCELLER DOOR AOYAMAで軽くアペロでもしながら時間を潰すといいでしょう。
10分前ちょうどに入り口に着いた時には、もうすでに本日のゲストの半数以上が着席していました。ドアオープンは10分前じゃなかったんかいー。
化粧室はもちろんありますが、座席によっては、他のゲストの後ろを通過しなければいけないので入店前に済ましておくのがスマートかもしれません。
ウェルカムプレートには、「Mr.〇〇×JULIA」とゲストに合わせたメニューカードがセッティングされているので、くれぐれも本名を知られたくない事情がある人はお気をつけて。
料理はドリンクペアリングとセットで25,000円。ワインを飲もうがノンアルコールだろうが、一律なので、お酒を飲める人は圧倒的にワインペアリングがいいでしょう。私には到底理解できませんが、ノンアルで食事を済ます健康志向が増えた今、ノンアルコールペアリングの需要も高いんでしょうね。片方がアルコールのペアリングをもう片方がノンアルコールのペアリングを注文しているカップルなどもお見受けして、時代だなとしみじみ。欲張りな私は、追加2500円を支払い、アルコールとノンアルのダブルペアリングで挑みます。
乾杯は日本の泡。神戸のワイナリーにて仕立てられた瓶内二次発酵のタイプ。グレープフルーツを思わせるシトラスに清涼感を感じるスタイルで、ややにごりもあったような気がします。
ノンアルVer.は自家製のロゼワインだったかな?を炭酸で割ったものでした。
お口取りは店名が刻印されたバンズを用いたスライダー。自家製BBQソースを纏ったプルドポークと甘酸っぱいリンゴの組み合わせが好印象。熱々ジュワジュワで開幕から脳に電撃が走るほどの旨さ。手のひらサイズながら非常に印象に残った一皿です。
お次は鮑と蕗のとうを掛け合わせた一品。苦味をテーマにしたのでしょうか。下に敷かれたわさびの葉っぱでタコスのように包んで、食します。
こちらのペアリングには、本橋ソムリエのルーツでもある茨城のマスカットベーリーA。
もちろん鮑という食材に赤ワインをあてるまでは許容範囲なのですが、苦味が主体のお料理に並びに視覚的にグリーンを強く感じるものに対して、酸度の高いワインを合わせることは、コース序盤ということを考えると、個人的には意図を理解するのが難しい合わせ方のような気がしました。
コース料理に重要なのは抑揚であると考えている、かつ序盤はローギアな私に難解な合わせ方でイノーベーティブの洗礼?を受けました。
お次は、赤貝にピクルスにした苺とフロマージュブラン、煎り酒をゼリーにしたもの。
普通に生活したら想像もしない食材の組み合わせですが、甘酸っぱさのトーンがうまく揃っていて面白い味覚です。
こちらには、先と同様マスカットベーリーAを用いたロゼワイン。チャーミングで軽やかな口当たりでお料理との親和性も高い。
平目 林檎 生姜(写真のみ)
こちらには岩手県大船渡市でつくられたシャルドネ種で合わせます。
コース中盤に差し掛かります。これほど思考と試作を重ねたであろうお料理をお一人で仕上げているのは凄すぎる。
人参のピュレ、せとか、ムール貝、の上から鴨の脂でコンフィにした人参のローストが覆っています。
山形 酒井ワイナリーのデラウェアによるオレンジワイン。カリンや干しアンズに、すりおろした林檎やジンジャーを感じる味わいでお料理と好相性。
お魚は真鯛。菜の花やケールの苦味を感じるソースと共にいただきます。おぉ、これは美味しいですね。火入れも素晴らしく、ばりっと焼かれた皮目と半生の身とのコントラストがいい。
イノーベーティブな調理だけでなく基本技術の高さを垣間みた瞬間でした。
ワインは、長野県東御市で瓶詰めされたピノ・グリを。なんとこのvtは生産本数532本だそう。
黄桃やアプリコットを思わせるフレッシュかつ甘やかな味わい。非常にエレガントで日本でもこれほどのワインが作られているのだと感銘を受けました。
メインはかすみ鴨。茨城かすみがうらの地で放し飼いされているブランド?鴨。完璧なタイミングで丸々1羽を焼き上げ、シェフお一人で捌き取り分けています。ゲストの視線をたくさんに浴び失敗が許されない状況で鴨を切り分けるの緊張するだろうな。
味わいは脂の質が非常に上品でクリア。あっという間に食べ終えてしまいました。全体の皿数を考えると適正な量なのかもしれませんが個人的にはもう少しポーションが欲しかった。
ワインは赤ワインを。岡山県を代表するドメーヌテッタのメルロ。赤系ベリーに、思いのほか酸を感じますが、タンニンは穏やかです。
お食事最後は、FARMER`S ARTWORKSと題した一品。さまざまな農家さんのお野菜たちと下にはリゾットだったかな?が隠れていました。人生で最もお皿の余白を用いたシメ料理でした。
こちらにもワインをお出しいただけます。広島三次ワイナリーのピノノワール。これで”みよし”と読みます。綺麗な酸味に、シルキーなタンニン、スモーキーさもほのかに感じました。
デザートは1品目はチーズの風味を強くしたアイスクリームとクランブル。ブラインドで食べたら本当にチーズケーキと答えてしまいそう。
お酒は、筑波の特別純米酒をお燗で。ワイン、ノンアルときて日本酒まで取り扱うなんて凄すぎな。アイスクリームも冷と日本酒の温の対比が好相性。
2品目はカカオをふんだんに用いたフォンダンショコラ。オレンジのソースなども相まって時折オランジェットを食べているような気分にもなる。
ワインは長野県塩尻のコンコードを用いた極甘口ワイン。ほぼアイスワインのような、濃厚な果実香や熟成由来のナッツなどリッチな味わいです。
小菓子にフィナンシェを頂きフィニッシュ。
以上3時間かけてイノーベーティブな料理とペアリングをいただき、税サ込27,500円。
総評に悩みますね。まず、料理とペアリングがパッケージ化されており、支払い金額が跳ねたりしないというのは心理的にいいですね。料理も意欲的なお皿が多く、味わいもうまくまとまっていたように気がします。
他方、今回のお料理は私にはハマらなかった。ペアリングも日本各地のワインの素晴らしさを知れたという意味では意義的なのですが、例えば酸味に酸味をといった同調のペアリングといったやや想定の範囲で、記憶に刻まれるようなものはありませんでした。それだけペアリングは難しいということ。
なんて、期待値が高かったためやや厳しいまとめになってしまいましたが、いいお店だと思います。naoシェフは調理中以外は気さくに会話してくださいますし、本橋ソムリエの空間をコントロールする能力はピカイチだと思います。インテリアもバリバリにかっこよくて痺れる。
仮に、同エリアで食事をするとなったら、私はフロリレージュではなくこちらを選ぶ。
以前、W Aoyamaがオープンしてすぐの際に伺い、naoシェフのパスタを食べたときはべらぼうに美味しかった記憶があるので、料理のセンスは間違いなし。
改めて移転先の35,000円のコースをフルパワーのお料理を頂いてみたいと思います。
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